侵食

死のうと思った。死ぬときの苦しみのほうがよっぽど楽なんじゃないかと思えてしまうくらい心身に負荷がかかっていて、耐えられそうになかったからだった。

死のうと思った。わたしが存在することを望みよろこんでくれるひとがいることはわかっていた。それでも死んでしまいたかった。なにもかもから開放されたかった。頭も身体も思ったように動かせない、植物のような状態で生きるのはごめんだった。なにより本当にしんどかった。息もできないほどの。

 

近所のスーパーへ行くねと妹に伝えた。

なにしに行くの?

散歩かな。

散歩? スーパーへ?

うん。

ほんとうに?

うん。

屋上に用があるの?

そうかもしれない。

こんなやりとりをしていると、妹が近づいてきてわたしを抱きしめた。背中をさすりながら何度もだいじょうぶと言い、彼女が泣くのにつられてわたしも泣いた。そんなことはしなくてもいい。症状のせいだ。だいじょうぶだ。お姉ちゃんがいなくなったら、悲しい。悲しいなあ。お姉ちゃんがここにいてくれることがなによりもしあわせだわ。スーパーに行くと言ってくれてありがとう。よく言ってくれたね。そんなふうに諭してくれた。

ひとしきり泣くと、飲んだ頓服が効いてきたこともあって脳みそを侵していた死にたいというきもちが薄れた。最期の晩餐がレタスになるところだった、と言うと、妹はいつものように笑ってくれた。こんな日もある。それでいいんだろう。こんな日もあるんだなあ、と思っておけばいいんだろう。きっと。